1976年に行った話
魔法の力を手に入れたようだ。
他人の夢の中に入れる魔法、
そして、過去の世界に行かれる魔法。
私が行きたいところは、そう、1976年8月9日。
母は初産で3710グラムのでっかい女児を産んだ。
父は自分の母校が甲子園で試合なのにテレビ中継が見られないとぼやいた。
私はでっかい赤ちゃんを見て、すぐに聖地へと向かった。
群馬県高崎市。
後にドラム菩薩となるヤガミトール、樋口家の長男のような長男でないような
微妙な位置にいる隆少年がいた。
半分ヤンキーの13歳11か月の日に焼けた少年だ。
少年は種を庭先にプッと飛ばしながらスイカを食べていた。
地面を見ると、文字になっていた。
「BIGになる」
この芸だけでもBIGになれる。
少年はスイカを食べ終えてから、うとうとと縁側で寝てしまった。
なんていいタイミングだ!
私は少年の夢に入り込んだ。
少年は夢の中で夏休みの工作を考えていた。
どうやらマイクスタンドを作るようだ。
俺は歌が得意だから、もしかしたら音楽で食っていけるかもしれないぞ。
少年に声をかけた。
「やっほー!私は未来から来た魔法使いだよ!」
「誰だんべぇ?誰かのかかどんか?」
「魔法使いです」
「魔法使い?!?ドクロがついたステッキはどこだんべぇ?」
「そんな格好していたらバレるから普通の格好をしているんだよ」
「未来から来たってことは、俺がBIGになれるか知ってるか?」
「じゃじゃーん!私はあなたのファンでーす!!」
「ほぇ~!」
「なんと、あなたは将来ロックバンドを組んで、めっちゃくちゃ売れます!」
「なんだいね~!BIGになれるのか!」
「なりまーす!!」
「そりゃいいなぁ!ありがとな!!」
「こちらこそ!こちらこそ!!こちらこその100倍!」
「ありが10匹!!」
「こちらこそこちらこそ!ありが10億匹!!じゃあさようなら~」
ヤガミさん、かわいかったな…
細くて筋肉質だったな…。13歳かぁ…。
あ、お誕生日おめでとうっていうの忘れていた…。
あれ?あの少年は…ゆーたさん??
寝ている…天使のような寝顔…
ちょっと夢にお邪魔します…
「やっほ~!私は未来から来た魔法使いだよ」
「おい!おばさん!声かけるからカブトムシが逃げちゃったよ!」
「めんごめんご。その代わり、あなたの将来について教えてあげる!」
「じゃあ、俺の将来のお嫁さん教えてくれ~」
「あっ…ごめん…私も知らない…でも、超モテます」
「…本当に魔法使い?」
「そうなんだよ…」
「じゃあ、知ってることって何?」
「将来の職業!」
「なんだいねなんだいね!俺社長がいい!!」
「えー!社長になりたいって言えばなれると思うけど…
実は、超ビッグになっちゃいまーす!実は私はファンでーす」
「なんだなんだ?歌手?ジュリーみたいな?すげぇ!」
「歌手じゃないけど音楽です。ロックバンドです!」
「ロックってなんだいね~!外国みてぇな?」
「1976年だと、ロックは外国か…そうですね!外国みたいなの!」
「外国みたいな音楽か~すげぇ!本当になりるんか?」
「なりますよ!もちろん!ファン、めっちゃいますよ!!」
「そのファンと結婚すればいいんじゃねーか?ワクワクするなぁ!」
「じゃあ、まったね~」
「ああね!」
かっわいかった~!!
目が柴犬みたいでほんっと可愛い!!
さて、お次は…八高線に乗り換えて今井さんちに行こうかな…。
「こんにちは~!暑中見舞いはがきくださーい!」
「いらっしゃい…かーちゃん、お客さーん!」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ、
寿君、私、未来から来た魔法使い!!」
「え…あ…魔法使いのおばあちゃんか…」
「ガクッ…ええ、そうだよ、おばあちゃんだよ…
ちょいと眠ってもらおうかねぇ…って、寝てるし!
よし、入っちゃえ」
「やっほー!!あらためまして!寿君!」
「またきた…で、何?」
「実はあなたの将来のことを知ってます!」
「へぇ…で?俺、なんになる?」
「超格好いいロックスター!!!!しかもバリバリいい曲作りまくり!」
「へぇ…(赤面)実は去年、リコーダーで作曲したら褒められたんだ」
「ですよねー!天才ですもん!!!曲もいいけど詞もいいんですよ」
「へぇ…そりゃどうも…」
「私、こう見えてファンクラブに26年入り続けていまーす!」
「26年?へぇ…」
「寿さんはギターです!めっちゃくちゃ格好良くて、
5万人が入る野球場を満席にしたこともあるし。
ミュージシャンが憧れるミュージシャンになってますよ」
「ギターって、おじさんがくれた、あれのこと?」
「そうです!おじさんがくれて、右だとしっくりこなかったんですよね」
「え…何で知ってんだ…」
「ファンの間では超有名な逸話ですから」
「そんなに有名に…本当かな…」
「本当ですよ!有名なバンドです。ずっと続けています。
日本屈指の長寿バンド」
「俺、本当は、音楽作りたいんだ…本気で」
「・・・・ありがとうございます…感涙…」
「寿君、私、あなたが組んだバンドの音楽が本当に好きで
大好きで、大好きで、人生のつらいとき、いつも励まされたんです。
あなたがいなかったら、私は私じゃなかった。
あなたの脳みそから出た曲、詞が、私の人生を変えたんです。
夢から覚めたら、私とのこの会話はすべて忘れます。
でも、これだけは…心のどこかにあったら、嬉しい。
生まれてきてくれて、ありがとうございます。
そして、一生応援します」
「そっか…じゃ、諦めない。
その代わり一つ約束して」
「なんでしょう」
「おばあちゃんも、辛いとき、諦めないで。ダイジョーブ。俺たちは強い」
「わかりました…アンチエイジングも諦めないね…」
うぐっ、うぐっ…
私の核の部分は今井さんの曲と歌詞だから、
やっぱ熱い思いが噴き出してきて一人草津温泉…。
じゃ、次は、あっちゃんち…
あっちゃん…あっちゃんの…おうち…
10歳のあっちゃんは、テレビを見ていた。
1945年8月9日に長崎に原爆が落とされて31年だとアナウンサーが言っている。
あっちゃんは、膝を抱え、じっと画面を見ていた。
和室の砂壁によりかかり、そのまま寝てしまった。
ザリッと壁が音を立て、あっちゃんは、小さな寝息を立てて、寝ていた。
夢の中に入ってしまおう…。
あっちゃんは、夢の中で、防災頭巾をかぶっていた。
焼夷弾が空気を切り裂き、笛のような音を立ててたくさん落ちてきた。
逃げても逃げても、なかなか足が進まない。
逃げないといけないのに、泥の中でもがいているように、動かない。
目の前で、たくさんの人が吹き飛んでいる。
テレビで見ている戦争と、この間見た映画「時計は生きていた」が
入り混じって、どろどろになってあっちゃんを襲う。
思わず、あっちゃんの手を取り、防空壕を探した。
運よく、入れた。
あっちゃんは「おばあちゃん、ありがとう。おばあちゃん、誰?」といった。
私は「未来から来た、魔法使いだよ」と答えた。
あっちゃんは「戦争、怖い」と震えていた。
「未来も、戦争をしている?」
「日本は終戦を迎えてから、一度も戦争をしていないよ」
「そっか。よかった」
「うん。これからも、絶対にないと思う」
「あのね、これ、夢だよね。僕、よくこういう夢を見るの。戦争の夢」
「そうなの…」
「いつか、夢から覚めなかったら、どうしよう。怖い」
「大丈夫。すべて夢」
「じゃあね、おばあちゃんが、もう怖い夢を見ないように魔法をかけてあげるね」
「うん」
「ベイビー指を鳴らせ、ビビデバビデブー!」
「ふふふ!それ、僕のかあちゃんもやっていたよ!その日は楽しい夢を見たよ」
「そうなんだ。じゃあ、よくきくおまじないなんだね」
「僕がデビルマンになって戦った夢だった」
「それは面白そうだね!」
「あとは、大きくなった夢!働いていたよ!」
「へぇ~!大きくなったら、何になっていた?」
「靴屋さん!いっぱい綺麗なお姉さんが買いに来て、
僕はいらっしゃいませ~って言ったら、どんどんお客さんが来たの。
お店が忙しくなったから奥で靴とか探そうとしたら、
偉い人から、『櫻井君はお店の入り口で頑張って』って言われたんだ」
「それ、もしかしたら正夢になるかもね!うふふ!きっとそうなるよ!」
「そっか~!僕、靴屋さんになるんだ」
「靴屋さんになりたい?」
「うん……なんでもいいや…なりたいものなんてないし…
僕にできることがあるかもわからないし…何がしたいっていうのもないし…」
「自分にしかできないことって、絶対あるよ」
「だって…お母さんのこと…守ってあげられないし…」
「お母さんね、あっちゃんのこと、大好きだし、
あっちゃんが生まれてきたことが最大の親孝行だと思うよ」
「そっかなぁ…僕がいなくても、別に、世の中変わらないし」
「夢の中だから言っちゃうね。起きたら忘れるから言っちゃう。
あっちゃん、大きくなったら、あなたにしかできない仕事をするよ。
あっちゃん、いっぺんに何人見たことがある?」
「うーん…わかんない…小学校の朝礼とか…」
「想像しづらいかもしれないけど、5万人ってすごい人数だよね」
「うん、すごい。よくわかんないけど」
「5万人が、あなたを見に来る」
「え…僕を…?」
「近くからも、遠くからも、わざわざ会社休んだりして、櫻井敦司を見に来る」
「なんで?」
「あっちゃん、大きくなったら、大人気のロックスターになるから」
「…よくわかんない…そんなわけない…」
「だって、私、大ファンだもん。ずーっと。中学生のころから」
「ファン?僕の?なんで?」
「あっちゃんが作るものが好きだし、あっちゃんそのものも好きだし、
あっちゃんの仲間のことも大好きなんだ」
「僕の、仲間?誰?同じクラスにいる?」
「うーん、いないな…仲間とは高校生になってから出会うよ」
「僕、高校生になれるの?お父さんには、高校なんか行かなくていいって…」
「高校生になるよ。優等生の。ふふふ」
「僕が高校生になるのも、ロックスターになるのも、信じられない」
「そうかぁ…」
「今は、自信がなくて楽しいことがなくてつまらない毎日かもしれない。
でも、それすらも糧にできるのが、あっちゃんなんだ。
あっちゃんの、一日一日が宝物だよ」
「ふうん…」
「あっちゃんが、自分のおうちが暗いって寂しい思いをしていても、
なんと、私も同じでさ、すごく励まされてることもあるよ。
明るいおうちだったら分かり合えないじゃん。ふふふ」
「そっか、暗いおうち、ほかにもあるんだ」
「あるある!でも、子どもがいると頑張れるんだよお母さんって!
子どもがいなかったらとっくに放浪してる!」
「ふふふ、そうなんだ」
「私、あっちゃんが書く詞が大好き。あっちゃんのライブでの表情も、
歌声も、指先まで毛先まで全部全部大好き。あっちゃんじゃなかったら
こんなにバンドに熱中することはなかったと思う。
あっちゃんがいるバンドに出会えてよかった。本当にありがとう。
あっちゃん、生まれてきてくれてありがとう。
あっちゃんのお母さんにもお礼が言いたい。
もちろんあっちゃんのお父さんにも、お兄さんにも、
おじいさんもおばあさんも、そのまたおじいさんおばあさんも、
全員にお礼が言いたいぐらい、私はあっちゃんが好き」
「ふうん…」
「って思ってる人、日本に、何万人もいるからね」
「…」
「ちょっとウソ」
「…だろうと思った」
「日本にってのが、ウソ。世界中にいるよ」
「世界とか…こんな僕が…」
「だって、自分たちがやりたいことに正直に音楽を作っているんだよ。
音作りもそう、ライブもそう。自分たちが楽しんでいる。
日本屈指の長寿バンドだからね。人気がなかったら続かない世界で
30年以上自分たちの色を塗り替え続けているんだよ」
「ふうん…そっか…」
「いつか、花が開くよ。大輪の花が。何十年も枯れない美しい花が」
「あっちゃん、生まれてきてくれてありがとう。
そして、今も生きていてくれて、本当にありがとう。
あっちゃんのお母さんも、ありがとう」
そんな夢見て、目が覚めたあっちゃん。
早く、ママに会いたいよ。
次は、星野英彦さんで〆か…。
「こんにちは~!まぐろくーださい!」
「いらっしゃい!いい赤身入ってるよ!」
「遠方から来たので、発泡スチロールにお願いできますか?」
「じゃ、用意しておくんで、ちょっとお待ちくださいね~」
「ひでひこさん、い・る・か・なっと」
「おれのことだきゃ?」
「いた!でか!」
「どこかのおばあちゃんかい?」
「そうよ、私は未来から来た魔法使いのおばあちゃんでーす!」
「どんな魔法を使えるんだきゃ?」
「ここにいること自体がすでに魔法です!」
「…暑いから脳みそがとけちゃってんのかな…」
「もう最後だから寝ていなくていっか、英さん、あなた将来ギタリストになりますよ!」
「俺、そんな不良じゃねーよ。俺はサッカー一筋だし!」
「なるって」
「ならないし」
「なるのにー」
「ならねーよ」
「日本武道館知ってる?ビートルズがやったとこ」
「うーん、なんとなく…」
「常連になっちゃいます!出る側の!」
「え!俺柔道やるの?」
「やりませんって。あなた、ロックの大スターになるんです」
「音楽やるなんて考えたことないし」
「今考えなくていいです。高校に入ってから、高崎から来たヤンキーに
連れ去られるまで考えなくていいです」
「あ、そ」
「で、もうすごいヒット曲作っちゃって」
「俺が?」
「そう!ニヤニヤ…」
「なんか変なばあちゃんだな…」
「実にいい曲…」
「おーい、ひでひこー!そっちにお客さんいねぇだきゃ?」
「いるぞー!」
「まぐろの準備できたっていってくんねぇか?」
「準備できたそうです」
「惜しい!もうちょっとしゃべりたかった!じゃあね~」
「まいどありー」
ふう…勢いでまぐろ買ったはいいけど…
じゃ、お父さんに食べさせようかな…もう一回行こう。
大宮で乗り換えて川口へ…
お父さんは家で晩酌をしていた。
あっちゃんのお父さんにも通じるような、お母さんを大事にしないお父さん…。
そのうち、寝てしまった。
家族と分かり合えないまま、あと34年で死んじゃう人。
夢の中に入ってみた。
男の子とキャッチボールをしていた。
そっか、お父さんは男の子が欲しかったんだもんね。
娘なんかいらないって思っていたんだよね。
すると、そこに、男の子のお母さんがきた。
私だ。
お父さん、早くも孫の夢を見ていた。
男の孫は生まれたけど、キャッチボールできる年齢までお父さんは生きていなかった。
私も子どもを育てているうちに、
子どもにいかにお金がかかるかが痛いほどわかってきた。
育ててもらって当たり前だと思って育っていたけど、
実はお父さんの稼ぎだけで、好きなことをさせてもらった。
むかつくことばっかりだったけど、やっとわかってきたよ。
お母さんにも会いに行こう。
病院に忍び込んだ。
お母さん、寝てる。
せっかくだからお母さんの夢の中へ…。
お母さんは、初めて生んだわが子がロックバンドの追っかけになった夢を見ていた。
生まれた日に正夢見てる…。
中学生なのにロックバンドのコンサートだなんて…
お母さん、許しませんヨ…
じゃなくて…気持ちよく送り出してくれた。
そうだ、お母さん、BUCK-TICKに行くななんて一度も言ったことがなかった。
「娘さん、ロックバンドのコンサートだなんて、大丈夫ですか?」
「私は娘が大好きで大事なんです。娘の好きなことは何でも応援したい」
私は、すやすや寝ている生まれたばかりの私の夢にも入ってみた。
ロックバンドの追っかけをしている夢を見ていた。
0コメント